2025.04.01 インタビュー
心を込めた建築が紡ぐ、木内建設100年の誇り
#現場
安全管理室 室長
河村毅

誠実さが築く、揺るぎない信頼関係
「嘘をつかない」―。木内建設の安全管理室長を務める河村毅が、施工管理の現場で35年間貫いてきた信条である。顧客との信頼関係を築く上で最も重要なのは、常に本音で向き合う姿勢だと河村は説く。
「優先するのは会社の儲けではなく、お客様への価値提供です」そんな真摯な姿勢で臨むことで、結果として確かな信頼が得られるのだという。その言葉からは、長年の経験に裏打ちされた確信が感じられた。
「一度でも嘘をつけば、その報いは必ず倍になって返ってきます」と河村は話す。建設現場では予期せぬ問題が日々発生する。そんな時こそ、顧客に対して正直に状況を説明し、解決策を提案していく。この積み重ねが、揺るぎない信頼関係を築いていくのだという。
建物を作ることを心から楽しむ姿勢もまた、顧客の安心感につながっていく。時には現場での工夫をアピールすることもあるが、それは顧客の利益に関わる場合に限る。「根本にあるのは、いいものを作りたいという一心です」。静かな語り口の奥には、建設に懸ける揺るぎない情熱があった。
現場での判断一つひとつに、顧客や取引先の意図を汲み取ろうとする姿勢が表れる。「お客様は何を望んでいるのか、設計事務所はどこにこだわりを持っているのか」。常にその視点を持ち続けることで、信頼関係はより確かなものになっていくのだと、河村は強調する。

「人」が紡ぎだす、建物の価値
「同じ設計図でも、所長が違えば全く同じには仕上がらない」という。
「建築は人による一品生産。自分の持てる技術と経験のすべてを注ぎ込み、良い建物を作るために全力を尽くす。それが私たちの仕事の本質です」と、河村は続けた。
設計図に明示されていない細部の納まりや、施工方法の選定など、現場での判断一つひとつが、建物の品質を左右していく。「例えば壁の仕上げ一つとっても、その下地の処理方法や納まりには様々な選択肢がある。何を優先し、どう処理するか。その判断の積み重ねが、最終的な建物の質を決めていくのです」
「職人さんが気持ちよく仕事ができて、魂の込もった仕事をしてくれること。これが何よりも大切」。河村が最も重視するのは、実際に施工を担当する職人さんたちの「心」だ。「私たち現場監督全員が担うべき最も重要な役割は、職人さんたちの心を震わせること。上から強く言うだけでは、決して人の心は動きません」
建設現場では、様々な職種の専門家たちが協働する。その一人ひとりが持つ専門性が最大限に生かされることで、良い建物は出来上がる。「技術者としてだけでなく、人として真剣に向き合えば、職人さんは必ず応えてくれる。建設とは技術と人の心、そのどちらも欠かせない仕事なんです」
すべては「Win-Win」の関係から
「現場監督は、協力会社を儲けさせて初めて一人前だ」。若手時代に上司から言われたこの言葉は、今でも変わらぬ河村の信念だ。「安全管理、工程管理、品質管理、コスト管理、環境管理…これらは最低限。当然のことです。でもそれだけでは足りない。本当の意味での現場管理とは、協力会社が継続的に仕事できる環境を作ることです」
現場をスムーズに進めるための工夫も欠かせない。「10人でやる仕事を8人で終えられれば、協力会社の利益も確保できる。そのために緻密な計画をたて、無駄を省き、各作業の効率を徹底的に追求する。これが現場を任された者の責任であり、協力会社がついて行きたいと思える現場づくりです。これを35年間、意識してきました」
「図面通りに作れば良い建物ができるわけではありません」と、河村は何度も強調する。「お客様、設計事務所、協力会社、近隣の皆様、すべての方々と良好な関係性を築いて初めて、本当の意味での良い建物ができるんです」
顧客、設計事務所、協力会社…それぞれの立場で要望が異なることもある。「目指すべきは、Win-Winの関係。全員が気持ちよく、お互いを尊重しながら作っていける。そういう現場こそが、本当の意味での成功した現場です」

安全は「心」が決め手となる
「事故は気持ちの隙から生まれる」。安全管理室長として河村が最も重視するのは、作業員一人ひとりの心構えだ。「コンプライアンスは絶対に守らなければいけません。でも、それだけでは現場は安全になりません。」作業員のモチベーションこそが安全管理の要であると、河村は語った。
「『今日1日、ここまでやるぞ』『今日もいい仕事をしよう』そんな意欲に満ちた人が、重大な事故を起こすことはまずありません」。現場の安全は、作業員の心構えと直結している。「モチベーションの高い現場では、職人さんとのコミュニケーションも自然と活発になり、事故のリスクは確実に下がります。これは35年の現場経験から導き出した確信です」
小さな怪我やもらい事故は、時として避けられないかもしれない。しかし重大事故は、必ず何らかの予兆がある。「職人さんの表情、現場の空気、そういったものを敏感に感じ取ることが大切。日々のコミュニケーションがあってこそ、危険の芽を早期に摘むことができる。だからこそ、現場の『心』を大切にしているんです」
これまでの経験を通じて河村が実感しているのは、安全管理と品質管理は決して別物ではないということだ。「心の通った現場からは、必ず安全で質の高い建物が生まれます。これは絶対的な真理です。現場の『心』をないがしろにして、良い建物なんてできるはずがありません」

守り続ける伝統、革新への挑戦
木内建設の強みは、100年の歴史が培った確かな技術力と堅実な経営である。静岡・名古屋エリアでは病院や学校、ホテル、博物館、事務所、工場など多様な建築を手がけ、東京ではデベロッパーの集合住宅建設など、着実に実績を重ねてきた。
「35年間、ただひたすら目の前の一物件一物件に真剣に向き合ってきただけです。会社がどうだとか、給料がどうだとか、あまり考えたことはなかったです。今、目の前にある建物をどう作っていこうか。ただそれだけを考えて、これまでやってきました」と、振り返ってくれた。
若い頃は一日の仕事に向き合い、中堅になれば一週間の工程を見通し、そしてベテランになるにつれて月単位、年単位の進捗を管理するようになる。「会社の歴史なんて考える余裕はなかった。目の前のことに必死でしたから」
時代とともに業務効率化や働き方改革も進み、かつては5人でこなした工事を、今では2人か3人で担当することもあるという。しかし、真摯にものづくりと向き合う姿勢は変わらない。「私ら世代の人間は、入社した頃から泥臭くて一生懸命というスタイルを貫いてきました。それは上の世代から見て学んだもので、今でもその DNA は受け継がれています」
未来を見据える確かな視線
2021年に創業100周年を迎えた木内建設。次の100年に向けて河村が願うのは、「どんな時代でも、ものづくりを心から楽しめる集団であり続けること」だ。「ものづくりを心の底から楽しむ集団が作った建物だけが、お客様を本当に喜ばせることができると信じています」
「木内建設の社員は皆、個性的です。それぞれが得意分野を持つ優秀な人材です。でも、一匹狼はいません。誰かが困ったときは必ず力を合わせて乗り越える、そんな強さと優しさを持ち合わせています。社長が示す方向に向かって、全員が同じ目線で進んで行ける組織です。時に個性の強さが目立つこともありますが、それこそが私たちの誇りです。異なる個性を持つ人材が互いを認め合い、高め合える。そんな組織だからこそ、本当に価値のある仕事ができるのだと思います」。河村の言葉には、木内建設への深い愛着と誇りが感じられた。
ICTやAIなど技術は進化を続けるが、建設の本質は人にある。「人のつながり、コミュニケーションはいつの時代も大切です。言い方は悪いかもしれませんが、『人たらしの集団』になってほしい。建物は、最終的に人の手でつくるもの。人の心をいかに動かすか。それが何より大切なんです」
「指示や命令ではなく、心の通った育成と技術の伝承を。それがこれからの時代には必要です」。木内建設は、伝統的なものづくりの精神を守りながらも、新しい時代への対応も着実に進めている。河村の言葉の端々に感じられる誠実さと情熱は、まさに木内建設という企業の真髄を体現していた。
